風流人日記

医王整体院 院長のblog

ゆっくり書くという行為

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 脚本家の山田太一さんが若者たちのスマートフォンの指使いの速さについて言及されているのを新聞で読みました。「自分の内側にある本当の言葉はあんなスピードでは出てこないはずだ、ありきたりの単語でしか表わしていないのではないか」そういう主旨のことが書かれていて、たしかにそうだなと思いました。
 私も、自分のスマートフォンを操る指の遅さは棚に上げたまま、なにか若い人たちのあの指の動きに驚きと同時に違和感を感じていました。それは日々鍛え上げた訓練の成果ともいえるし、なんら否定するものでもないのですが、自分もそうなりたいとは思わないのです。若者たちからすれば、還暦過ぎのおっちゃんにはやりたくても真似できるはずないと言われるかもしれませんが、、、。


 実は、若者たちのような芸術的な指の動きは無理だとしても、なんとかもう少し簡単に文字を入力できたらと思いいろいろ探してみたところ、手書き入力ソフト(mazec)というものを見つけました。実際に紙に字を書くのと同じように、スマートフォンのタッチパネルに指やタッチペンで文字をなぞると、それがちゃんと活字に変換されるのです。画数の多い複雑な漢字はひらがなで書くと、それもちゃんと漢字に変換されます。一番最初に使った時はちょっと感動的でした。いまや、あんなことができれば、こんなものがあればと思うことは、ほとんど製品化されていることにも驚きを感じました。日本語は世界でも独特の言語です。こんなソフトを開発しようと考えるのも、やはり日本人特有のきめのこまかい発想でしょうね。

 その手書き入力ソフトを入れたのは、ただ便利で使いやすいというよりも、普段ノートにむかって頭に浮かんだことを筆を動かして書き、また少し行き詰まると筆を持ったまま考えるという日常のスタイルが、スマートフォンでどこででも可能だということに価値を感じたのです。私が普段ものを書くのは、なにかを記録しておくことと同時に、静かに心を落ち着けて考えをまとめる意味合いが大きい気がします。だからただ機械的に文字を打つのではなく、アタマで考えることと書く指の動きを一致させることを大事にしたいのです。
 コンピュータは便利なのですが、よほど慣れないとキーボードやボタンを操作することに気が散って考えることが止まってしまうことがあります。それを解消してくれるのがこのソフトです。じっくり考えながら書く、あるいは考えることと書くことのスピードが一致する、そういう人間時間を大切にした優れたソフトだと思います。

 何もかもがスピードと効率を重視した社会になりましたが、人にはそれぞれ自分に合うリズムや速さがあると思います。ですから、そんな社会のペースに合わせてばかりいては疲れてしまいますし、自分を見失うことになります。
 スピードと効率を考えてなにかに突き進んだ結果、振り返ると何も残らなかったという経験はないでしょうか? 結果がすべてではありません。その過程の一瞬一瞬を大事にすることが結果的にいいものが生まれることに繋がるのだと思います。


 古代の人の書くという行為は、ものを引っ掻いたり何かを彫って跡をつけるということだったと聞きました。時間のかかる作業です。しかしひたすらその作業に没頭することで自分と向き合い、ゆっくり流れる時間の中で自分の内面をそういう形で丁寧に表現していたのでしょう。
科学技術の進歩はありがたいことです。しかし、そのありがたさに甘えず、時には古代の人のように、自分を見失わないよう自分の時間をゆっくり歩く時間を持ちたいと思います。

 もうひとつこの手書き入力ソフトの面白いところは、活字に変換せずに手書きした文字のまま残すこともできるのです。このキーを打つと必ずこの文字が出るという規則的なことだけでなく、これだと同じ一文字にもその人の人柄が表れます。まあ字がヘタクソなのは露呈しますが、それも個性の一つです。

 スマホの入力にお困りの方、達筆自慢をしたい方もぜひお試しください。