風流人日記

医王整体院 院長のblog

腰痛治療革命 〜振り出しに戻る〜

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 去る7月12日にNHKスペシャルという番組で「腰痛・治療革命 ~見えてきた痛みのメカニズム~」が放送されました。ご覧になった方も多いと思いますが、これまで聞いてきたこととだいぶ変わったなあという感想を持たれたかもしれません。内容に関してはご覧になったとおりで、ここで詳しく書くことは避けますが、私なりの感想を書いてみたいと思います。

 そもそも、大昔からあった腰痛という「痛み」が、なぜいまや日本人の4人に一人とまでいわれるような「病気」になってしまったのか。そのあたりから考えてみます。

 昔はいったいどれくらい腰の痛みを訴える人がいたかは分かりませんが、おそらく現在と同じくらいの率で多くの人が腰痛を感じていたのではないでしょうか。考えてみても、昔は今のように交通機関も発達していませんし、よく歩きました。ボタン一つでお湯を張れるお風呂や洗濯機も冷蔵庫もありませんから、当然なにをするにも目一杯カラダを使って労働をしていました。重い荷物を肩に担いだり、腰に負担のかかることは日常茶飯事だったでしょう。それでも、もちろん医療が発達していなかったこともあるでしょうが、そんな腰の痛みは、素直にただの「疲れ」として、誰かに腰を揉んでもらったり、たまには温泉にゆっくり浸かってカラダを休めて凌いでいたのではないでしょうか。そんな常に腰痛を感じていた昔の人たちが、なにも治療をせずこじらせて歩けなくなったなどという話は聞いたことがありませんし、そもそも腰痛を病気だとは誰も考えていなかったと思います。それが、医学が発達するにつれ、次第に「病気化」していったのです。

 腰椎椎間板の突出が坐骨神経痛を引き起こすということが最初にいわれたのは明治44年です。いわゆる椎間板ヘルニアですね。レントゲン氏がエックス線を発明し、身体の内部の様子を知ることができるようになって数年後のことです。

 エックス線の発明によって、それまで分からなかった原因不明の病いが解明されることもたくさんあったでしょうが、腰痛に関しては、これが裏目に出てしまったようです。つまり、本当はそれが痛みの原因でなくても、エックス線で本来の構造(形状)とかけ離れたものが写ると、それを痛みの原因だと考えてしまったのです。その後、ヘルニアを取り除く手術をしても良くならないケースが多発したためその理論は疑問視され、厳密な検証の結果、痛みの生理学が示した結論はそれは痛みの原因ではなかったということですが、それでもいったん医学の常識として定着したものは、なかなか簡単には覆らないようです。      

 番組でも触れていましたが、欧米ではもう20年前から従来の治療法を見直す動きがあり、国を挙げて経済的損失が多大な腰痛を撲滅するキャンペーンが行われたりもしました。それを思うとここへ来てようやく日本も追いついたかという感は否めませんが、いずれにしても、慢性痛で苦しむ多くの人のことを考えると、今からでも間違った治療法が改められ、回復への道がはっきりしてきたことは何よりも喜ばしいことです。

 過去にこのブログで何度も書いていますが、腰痛はそんなに難しく考える必要のない昔からあるカラダのごく自然な反応です。危険な兆候(麻痺や排泄コントロール不全)がなければ、痛みがあっても必要以上に怖がらず、少し休んだらゆっくりでもカラダを動かすことが大切です。

 昔と今で違うのは、昔は体の使い過ぎから起こる痛み、つまり「休め」というサインです。かたや現代の痛みは逆にカラダを使わなさすぎ、または同じ姿勢・同じ動作ばかり繰り返すことによって起こる腰痛がほとんどです。これは昔の「休め」のサインと反対の「もっと動かせ」というサインと考えられるでしょう。

 貝原益軒は「養生訓」の中で言いました。

「心は常に楽しむべし 苦しむべからず。身は常に労すべし やすめ過ごすべからず」

 益軒さんの時代以上に、現代社会は何かと心苦しむことは多くても、身体は苦しむほど動かすことはほとんどありませんね。  

 さあ、歩きましょう! 動きましょう!