養生に貯金なし

　整体に来られる方と「ちょっと運動不足ですかねえ」という話になると、「やり方が分からない」とか「したいけど時間がないからねえ」とか、運動をものすごく大層なものに考えていらっしゃいる方が多いことに気づきます。

　先日も、「友達が自転車を始めてとても健康にもいいと言うので僕もやりたいと思うが、自転車って高いねえ。あきらめた」とおっしゃる方がいました。そりゃあ趣味でいい自転車を買うのは別として、特別にそんなに高いお金を出さなくともママチャリでも十分いい運動になると思うのですがねえ。

　それはさておき、運動っていうのはなにか道具が必要だったり、決まった場所に行かなければならなかったりする、そんな特別なことではないんじゃないでしょうか。

　オリンピックを目指すような一流のスポーツ選手は、例えば水泳の場合でも泳ぎの技術の進歩は言うに及ばず、水着ひとつとっても近年ますます用具の競争が激しくなっています。

　しかし私たち一般人が健康維持のためにする運動は、もっと手軽でお金もかからず簡単なものでも十分その役目は果たすと思います。その上で例えばウォーキングなら軽くて歩きやすいシューズを揃えたり、ちょっとおしゃれなウエアを楽しむのもいいでしょう。楽しむための小道具があれば、続ける励みにもなります。

　養生というと運動だけでなく食事や睡眠、生活全てに関係しますが、一番お金のかからない養生法をお教えしましょうか。これを言うとなあ～んだとか、そんなの教えてもらわなくてもちゃんとやってるよとおっしゃる方が多いのですが、それは「呼吸」です。確かに呼吸は誰にも教えてもらわなくても生まれてから今までちゃんと続けていますよね。でも問題はいい呼吸をしているかどうかなのです。ちょっと意識していい呼吸をすると、それだけでもいい養生法になります。

　楽ないい呼吸を覚えると、あせったり上がったりしているときや、怒りが込み上げてとても興奮している時、自分の乱れた呼吸に気づいて、いい呼吸にもどすようになります。そうすると不思議なことにイライラや緊張がある程度治まります。

　呼吸は感情の変化と深い関係にあるのです。緊張しているときは自然に早く浅い呼吸になりますが、そういうときに自分の呼吸をコントロールすることによって、昂った感情までも押さえることができるのです。

　どうです、場所も道具も要らず安上がりで、その上いろいろいいことがあるでしょ。

　そんなふうに私たちには本来、必要充分なカラダの働きが備わっているのです。その働きを存分に生かしきれていないか、あるいはなにかそれを妨げているものがあるのために苦しくなってしまうのです。だから何か特別なことを身につけるよりも、本来備わっている力を発揮できるようになればいいわけです。

　昔は今と違って、特別な運動をしなくても日常生活自体が体を十分使うものでした。それが難しくなった今、私はその原点に戻るために行うのが気功だと考えています。これまで何度も書きましたが、気功は「調身・調息・調心」といって呼吸から身体と心を調えます。そして、自分の身体とじっくり向き合うことで、それまで気づかなかったカラダの働きや能力に気づきます。

　なにも新しいものを外に探さなくても、自分のなかに素晴らしい潜在能力が眠っているのです。私は虚弱体質で運動は苦手という先入観をお持ちの方も、そのことに気づくと、さまざまな健康ドリンクやサプリメントに頼らなくても大丈夫だという自信が出てきます。

　結局は日々の生活の中でその隠された力に気づきそれを生かすこと、つまり一日一日が大切なのだと思います。たとえ週に一回でもジムでトレーニングをしたり走ったりするのも悪くはありませんが、かといってそれ以外の日は不養生というのでは困ります。

　養生に貯金はないのです。

　ジムへ行かなくても、まずは一生休みなく続く、一番身近な呼吸から見直してみてはいかがでしょうか。