風流人日記

医王整体院 院長のblog

奇跡のアゲハチョウ

140830

 夏休みの宿題の観察日記ではありません、今年の春の奇跡のような本当のお話です。

 ここ数年、我が家ではアゲハチョウの卵を保護し、飼育ケースに入れて蝶になるまで育てています。きっかけは2010年の夏に、妻がベランダの鉢植えのグレープフルーツの木に卵が産み落とされているのを発見したことからでした。しばらく様子を見ていると、何日かするとその卵がなくなっているのです。これはきっと鳥かヤモリの餌食になったのだろうと哀れに思い、次に見つけた時に飼育ケースを買ってきて飼い始めたのです。  無事に孵化し幼虫になると、むしゃむしゃ音を立てながらおもしろいほど葉を食べ、どんどん大きくなっていきます。やがて蛹になると、あれほど丸まると太っていたからだが小さくしぼんでしまい、じっと動かない姿を見ていると不安になります。


 無事に羽化することを祈りつつ待つこと約一週間。ある朝起きて飼育ケースをいつものように覗き込むと、中に大きく羽を広げた立派なアゲハチョウがいるではありませんか。まるで我が子の誕生のような感動の対面。喜びと同時に、大げさかもしれませんが、信じ、見守り、待つことの大切さをあらためて思ったものです。
 飼育ケースから出してやるとしばらく家の中で飛行訓練をしたアゲハは、もう自信がついたのか夏の空へ飛び立っていきました。


 それ以来、毎年暖かい季節になるとつぎつぎ卵は産み落とされ、見つけると保護して育てるようになりました。それが昨年は空前のベビーブームで、合計15頭のアゲハを保護し、旅立っていきました。それだけ数が多くなると同時に数匹も飼うことになるので、飼育ケースが一つでは間に合わなくなり、もう一つ大型のを買い足しました。家の増築です。これでなんとか居住空間は確保できたのですが、ところが10頭を越える当たりから毎日の点呼が大変になり、名前を読んでも答えてくれないので、すべての生存を把握しきれないほどになりました。

 そんな中、旅行で三日ほど家を離れなければならなくなりました。もう蛹から蝶に羽化しそうな個体もいたので、カゴの蓋を閉めずに出かけました。それが家に戻ってみると大変。羽化したのはいなかったのですが、多くの幼虫がカゴから脱出して、家の中をうろついているのや、家具の扉で蛹になっているのやら、我が家は蝶屋敷と化していたのです。そんな散り散りバラバラになった幼虫たちに集合をかけ数を数えてみると、一頭足りません。確か16頭いたはずなのですが。、、、結局他の15頭が全部巣立っていってもその16頭目は見つからず、かわいそうながら諦めました。


 それが半年の時を経て奇跡が起きたのです。この春のある朝、散歩から戻り水を飲もうとキッチンに行くと、冷蔵庫の前の床に小さな蝶々が羽を広げて横たわっているのです。窓も開けていないのにどこから入ったんだろうと不思議に思いながら手を伸ばし触ってみるとちゃんと生きています。どうもまだ羽化したばかりで、羽根を乾かしていたようです。あっと頭をよぎったのはあの行方不明になった一頭です。冷蔵庫の底かどこかで越冬したのでしょうか。それにしても、半年蛹の姿でずっとここにいたことを考えると、信じられない思いです。寒い冬を飲まず喰わずで干涸びもせず生き延びたと思うと、感動で胸が熱くなりました。ベランダに放してやると、鉢植えのナデシコの蜜を一生懸命吸っていました。長い冬を乗り越え消耗した体力を取り戻し、飛び立つためのエネルギーを蓄えているようでした。


 思いもよらず、私は自分の浅はかな知識では想像も及ばないほどの生命のドラマを見せてもらいました。自然の力は不思議、命は素晴らしい、そう思わずにはいられませんでした。蝶たちが羽ばたくまでの日々を見ていると、そのひたむきに生き、成長する姿に、あらためて命というものはまさに奇跡の出来事であることを知らされるのでした。

 いつか感動的な羽化の瞬間を見届けたいと思っていますが、それはまだ叶いません。