風流人日記

医王整体院 院長のblog

大丈夫? 腰痛2800万人の日本

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 3月24日の朝日新聞朝刊の一面トップに腰痛に関する記事が載りました。内容は要約すると次の通りです。

 日本全国で腰痛の人は2800万人いると推定される。腰痛は背骨のガン、椎間板ヘルニア、脊柱感狭窄症などでも起こるが、それらを認められないこと(記事ではそれは「原因不明」としている)が全体の8割以上占める。整形外科学会と腰痛学会は、こうした腰痛には抗炎・鎮痛薬などの「薬物療法」とストレッチやウオーキングを推奨する。またストレスが引き金になっている腰痛もあり、鎮痛薬などが効かず心理的な影響が疑われる場合は、抗不安薬抗うつ薬も有効である。そのほか強く推奨する治療法は認知行動療法、推奨するのは腰椎コルセット、脊椎固定手術、温熱療法。推奨しないのは安静。 牽引療法とマッサージは根拠なし。

 一面に大きな文字が並ぶと、おやっ、何か新しいことが見つかったのかと思って興味深く読んだ方も多いことでしょうが、トップ記事のわりには中身が乏しく、突っ込みどころ満載ですね。

 新しいことといえば(といっても分かっている人にとっては周知の事実なのですが)、ストレスなど心理的要因が大きいということを発表したこと。それにともなって鎮痛薬以外にも抗うつ薬などを整形外科医が処方し、認知行動療法などの心理療法も有効であることを認めたことです。これは一歩前進と言ってもいいところですが、椎間板ヘルニアや脊柱感狭窄症などの背骨の構造的な変化が痛みの原因になっていることが2割以下だとしているにもかかわらず、脊椎固定術などの手術をいまだに推奨しているのは納得できません。実際に画像検査で椎間板ヘルニアや脊柱感狭窄症を認められても痛みのない人はたくさんいますし、手術をしたにもかかわらず痛みが取れない人を私は大勢みてきました。

 また、ここまで心理的影響の大きさを認めるのなら、それが痛みに繋がるメカニズムを明らかにすべきです。原因不明という言葉は患者さんの不安を煽るばかりです。代わりに私が解説しましょう。

 強いストレスなど心理的な緊張が続くと自律神経のバランスが崩れ(自律神経は感情と深く関わっています。不安も大きなストレスの一つです)、筋肉の緊張や血流の悪化が進み、筋肉が酸欠状態に陥ります。これは運動不足でも同様のことが起こります。

 みなさんも緊張する出来事があると体に力が入って肩が詰まったり背中がカチカチになってしまったりという経験をお持ちでしょう。また長い時間同じ姿勢で映画を見たりバスに乗ったりした後、さあ立とうとすると筋肉と関節が固まって動けないことがあるでしょ。

 これが慢性的に続くと血流不足になり筋肉の酸欠や栄養不足に陥り、筋肉が凝り固まってしまいます。これがほとんどの痛みの原因です。新聞記事にある原因不明の腰痛は実はこんなメカニズムで起こるのです。

 したがって、根拠なしとしているマッサージは緊張緩和のためには有効であるといえます。安静より運動をと言っているのにマッサージの効果に根拠がないとするのはおかしなことです。マッサージは自ら動く運動ではありませんが、筋肉を和らげ血流を改善する効果は間違いなくあります。そのうえで自分で運動するとさらに効果は上がります。(一口にマッサージといってもその内容は千差万別ですし効果の薄い手法もあるでしょうが、一概に根拠がないと言ってしまうことは問題ありです。)

 もうひとつ言いたいことは、無駄な画像検査をして椎間板ヘルニアなど構造的変化を写真で見せられると、正しい知識がなければそれは大きな不安の材料になります。実はこの不安が治癒を妨げているケースがよく見られます。ですからここは、たとえヘルニアが見つかってもそれは痛みの原因ではなく、放置しても大丈夫だということをはっきり伝えるべきでしょう。いまだに手術を推奨することなど世界的に見れば遅れているとしかいえません。 どうしても手術が必要な状態、つまり麻痺があったり排泄のコントロールができなくなったりするのは1~2%だと思います。それ以外は手術以外の方法で改善することは十分可能です。

 なにか批判ばかりするのはあまり気分がいいものではありませんが、旧態依然としたやり方でなかなか治らずに不安を抱いたり困っておられるみなさんを守るために、ここは敢えて苦言を呈したいと思います。

 必要なことは筋肉に目を向けることです。そして筋肉の緊張状態を心身両面から改善していくことです。