風流人日記

医王整体院 院長のblog

脅威の自己治癒力

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 傷は消毒しないほうが早く治る、という話をご存知でしょうか。これまでの傷の治療の常識からすると信じられないような話ですが、興味のある方は夏井睦氏の「傷はぜったい消毒するな」(光文社新書)をお読みください。なるほどと頷かれることがたくさんあると思います。

 私はこの本に書かれている傷の治療に関する新しい考え方もさることながら、その理論のベースとなった人間も含めた生物の生命維持システムに改めて感銘を受けました。

 あらゆる生物はこの地球上で生きるため、あるいは種の保存のために、驚くべき能力を獲得しながら進化してきました。生きるためには他の生物との生存競争に勝ち抜かなければなりません。

 また、万が一怪我をしたときや病気になった場合、まずは自分で傷んだ箇所を修復しなければなりません。その修復のための身体の知恵や戦略のなんとすばらしいこと。

 それだけではありません。生き残るためならどんな敵でも殺してしまうのではなく、敵すらも自分を守るために味方につけ、お互いに共存するという戦略まで生み出したのです。

 ここでは身体を守る仕組みや治癒の過程について詳しくは書けませんが、自己修復力を存分に発揮するには治っていく過程を大事にしなければなりません。つまり治る邪魔をしないようにしなければならないのです。治る仕組みを理解し、治る環境さえ整えれば、余計なことをしなくても驚くほどよく治るということです。

 昔の人はよく「ほおっておいたら治る」と言いました。この「勝手に治ってしまう」ことの裏には、想像を絶するほど複雑な生命のシステムが働いているのです。そのすべてを把握していたわけではないでしょうから、経験的にそのことをわかっていたのでしょう。つまり、身体にはすばらしい治癒能力が備わっているのだから、余計なことをしなくても余程のキズでない限りは治る、と言いたかったのだと思います。そこには身体を部品の集まりのように機械的にとらえるのではなく、さまざまな関わりによって成り立っている生命体としての身体の力を信じる気持ちや、自然の一部でもある身体に対する畏敬の念さえ感じられます。

 医学が発展したために確かに人類の寿命は延びました。しかしそれ以前に、他の哺乳類に比べ圧倒的に長生きなのは、自然から授かったこの素晴らしい生命維持システムによるところが大きいのではないでしょうか。

 傷の治療だけでなく、これまで医学の常識とされていた様々な治療法の中にも間違った考え方がたくさんあって、治しているつもりが実は治癒の邪魔をしていたということがたくさんあるのだと思います。

 身体のことはまだ未知のことだらけですから、その時代に最先端とされる理論や技術も、時間の経過とともに身体のシステムがわかってくるにつれどんどん古くなっていきます。だから、従来の治療法が間違いだと目くじらを立てるのでなく、間違いを素直に認めた上で、正しい治療法にできるだけ速やかに切り替えていかなければなりません。

 それは、科学的という言葉にとらわれすぎて機械や数値にばかり頼るのではなく、もっとシンプルに、目の前の痛んだり弱ったりしている「患者さん=patient(痛みに耐えるという意味があります)という現象」を観察するところに、いま一度戻らなければならないということなのかもしれません。そして、患部を取り除く、外敵を排除するという考え方だけでなく、温存する、共生する、そして患部が自発的に治癒しやすい最適の環境に戻すという考え方をもっと大切にしていく必要があるんじゃないでしょうか。

 人類として獲得してきた生きるための力、自己治癒力など、身体に本来備わっている力をもっと上手く利用すれば、より効率的に、より経済的に治療ができるのではないかと思います。

「人の不安は科学の発展から来る」と夏目漱石は言ったそうです。