風流人日記

医王整体院 院長のblog

金メダルとひざ痛

19g1zbgg 私も若かりし頃、アルペンスキーをやっていました。昨今はスノーボードのほうが人気があったり、観るスポーツとしてはモーグルやジャンプに注目が集まっています。そんな事情もあってか、トリノオリンピックのテレビ放送もアルペン競技は出番が少ないようで、少し寂しい気がします。
一昨日の夜はめずらしくNHKで男子スーパー大回転をやるというので、おおよしよしと、テレビの前で勇んで観戦していましたが、ちょっと目を離した隙になぜか途中で他の競技に変わってしまいました。

でもそのなかで、ちょっとうれしくなるようなことがありました。私がアルペンに熱を上げていた頃からは選手も世代交代し、名前も知らない若手選手ばかりのなかに、オーモットという選手の顔が見えたのです。この選手はもうかなり以前のオリンピックでメダルを取っていて、その頃からのスター選手なのです。そうかまだがんばっていたのか!。懐かしさと同時に敬意を覚えました。どのスポーツも長く選手を続けることの大変さは同じでしょうが、特にこのアルペン競技は相当な体力と精神力を要しますから、長くトップレベルで活躍することは至難の業でしょう。

残念ながら、私が見逃したのか放送が中断されてしまったのか、彼の滑りを観ることはできませんでしたが、今朝の新聞に結果がでていました。
なんとそのオーモット選手が優勝したのです。思わず新聞を切り抜いて、今その記事が手元にあります。

 最初のメダルは1992年のアルベールビル五輪のスーパー大回転制覇。以来、長くアルペン界に君臨し続けるスーパースター。
 今大会は滑降で4位に食い込んだものの左ひざを負傷。複合は欠場したが、連覇を目指す執念がケガの不安を吹き飛ばした。「ひざのケガはあったが、いつもより攻撃的にコースを攻め、気持ちよく滑れた。この金メダルが今までで最高のメダルさ」
とのコメント。(毎日新聞より)

驚きました、もう34歳。しかも数日前にひざを負傷しての金メダル。
人間というものは、なんと大きな潜在能力をもっているのでしょうか。
心の底からスキーが好きだということがまず第一条件でしょう。それがあるからこそ、辛い練習にもケガにも耐えながら長く続けることができるのでしょう。

でも私が注目したのは、「執念がケガの不安を吹き飛ばした」というところです。
本人のケガの状況は詳しくはわかりませんが、相当つらい痛みがあったはずです。
以前「痛みを聴く」で書いたとおり、痛みとは本人の「体験」なのであって計測することは不可能です。そして痛みは不安や抑うつと大きな関係があるといわれています。
つまり、痛みを体験している本人でさえ、痛みの感じ方はその時々の心理的状態によって大きく変わるということです。
これはストレスによって脊髄にある痛み刺激の伝達を抑える機構の働きが悪くなることや、ある心理状態では脳内モルヒネといわれる鎮痛物質が脳でつくられることなどからわかっています。
オーモット選手の場合にも、不安というストレスを執念で自信に塗り替え、また集中力とより高いものを目指す興奮状態が、痛みの抑制に大きな役割を果たしたのではないでしょうか。

私は痛みを抱えた人たちにスポーツ根性論を語っているわけでも、痛みを気力で乗り越えようといいたのでもありません。いくらがんばっても痛いものは痛いのです。
しかし、オーモット選手のケガとは程度の違いはあるでしょうが、一般的なひざの痛みのほとんどは、すり減った軟骨や骨が原因ではなく、ひざ周辺の筋肉や腱・靭帯が痛みの発信源なのです。ですから、もう二度と元通りにならず、つらい痛みは一生続くなどとは思わないでいただきたいのです。
痛みがあれば当然不安を感じます。そのとき、すり減った軟骨のことが頭に浮かぶと、怖くなってできるだけ動かさないようにしてしまいます。するとひざの周辺の筋肉はますますこわばると同時に筋力が衰えます。不安や恐怖といったストレスが大きいため、痛みの抑制機構の働きも悪くなります。
このように不安をもったまま動作を制限していると、悪循環に陥ってしまうわけです。
大きな事故でケガをしたわけでもなければ、ひざや肩、腰の痛みはほとんどの場合、ストレスによる交感神経の緊張で血流が不足し、筋肉が酸欠を起こしているのです。軟骨のすり減りや椎間板の変性は、ごく自然な老化現象です。それ自体はなにも恐れることはありません。不要な不安は治癒を長引かせるだけです。
少しずつでも運動を始めて、不安を自信に変えていってください。
オリンピック選手も私たち凡人も、基本的な身体の生理機構は同じなのです。