風流人日記

医王整体院 院長のblog

「不安」という怪物と「安心」というクスリ

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一週間ほど前に重い荷物を持ってしゃがんだ拍子に腰に痛みを感じ、それ以来、寝床から起き上がる時や立ち座りの時の痛みが一向に治まらない、といって来院される。
10代の頃、一度同じように重いものを持って腰を痛め、病院へ行くと骨がずれているといわれて一ヶ月入院したことがあるが、それ以来一度も病気や痛みを経験したことがないので、とてもショックだとおっしゃる。
2日ほど仕事に出たが、重い荷物を持つ仕事なのでつらくて、その後大事を取って休んでいるとのこと。

触診すると、大腿の後ろ側と臀部、背腰部に圧痛がある。肩や背中の上部にも強い緊張がみられる。
肩にまで緊張があることを指摘すると、腰が痛くなってから肩まで痛くなってきたとおっしゃる。
けがも病気も無縁の生活をおくってこられて、本人の言葉のとおり大きなショックと不安が、からだに強い緊張を現しているのだと思う。
さらに30年以上前のこととはいえ、重いものを持って骨がズレたと言われたことがいまだに頭の片隅に残っていて、また今度も骨がズレて長期入院を迫られるという不安と恐怖心がわき上がってきたのであろう。

まずは、ゆっくりと深い呼吸をしておいてくださいと言っておいて、肩と背腰部の緊張を緩めてあげる。
次第に呼吸が穏やかになるとともに背中の緊張も緩んでくる。
姿勢を変えて横になってもらう頃には、「だいぶ痛みが楽になってきたようです」と、明るい表情で声をかけてこられた。
仕事のことや日頃の生活ぶりを尋ねながら、痛みの原因について話をする。

骨は少し重いものをもったぐらいでは簡単にズレたりするものではありません。体重の5〜6倍の重みに耐えられるようにできていますから安心してください。仕事や生活の疲れが足腰の筋肉にたまっていたところに、たまたま重いものを持ったことがきっかけになって、筋肉の痛みが出た。筋肉の緊張を取り、血流が改善すれば、痛みは治まります。

通常このような痛みは2〜3日で治まるものだが、そこに悪役として登場したのが昔の「骨がずれた」という説明から受ける”一大事だ”というマイナスイメージと、またこのまま入院という事態になったらどうしようという不安だ。
この悪いイメージからくる不安こそが、痛みの快復を妨げている最強の犯人であろう。特にこの方のように痛みに対する耐性が少ない人にとっては、痛み慣れした人の数倍も不安が大きいのだろう。

大事には至らないという安心を与えてあげることと、溜まったからだの疲れを軽くしてあげることが重要だ。

疲れを満杯に溜めないように人それぞれ工夫をこらしてはいるのだと思うが、たまったからだの疲れも精神的な疲れも、日常生活のなかでは簡単に落とすことはむつかしい。そこで思い切って休暇をとって旅に出たり、仕事を忘れて好きな趣味に没頭したりして、非日常を体験することで気分転換をはかるという方策があるのだが、いかんせん日本の社会はまだまだそれすら簡単に実行できる地盤がない。
仕事に追われて簡単に休みを取ることなどできない。やっとのことで休みが取れたとしても、その間も仕事のことが気になってしかたない。きっとたいていの人は心の奥に罪悪感を感じながら休んでいるのだろう。そんな気持ちを抱えたままでは身も心も休まるわけはない。

そんな時、せめて一時間でも積極的にからだを休めることができるのが、整体の良さでもあるのだろう。
疲れでこわばったからだを緩め、こころの隅にくすぶっている怒りや愚痴を口に出し、不安をなくしてこころの緊張まで取れれば、痛みは時間の問題で消えていく。