風流人日記

医王整体院 院長のblog

痛み3倍説

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 痛みというものは他人にはなかなかわかりません。痛みは計測できないですし、一人ひとり固有の体験だからです。他人の痛みの程度は、苦しんでいる表情で判断したり、その人の声や様子で想像するしかありません。しかし、それすら人によって我慢強い人もいればちょっとオーバーに表現する人もいますから、客観的な判断は難しいわけです。

 面白いことに、痛みが治まって元気になればみんなその時の痛みを自慢げに話します。「ああ、あんなに痛いことはなかった。君にはわからないだろうけど」と、やはり自分の痛みが世界で一番なのです。

 他人と痛み比べをしていても仕方ありませんから、ここでは自分自身の痛みについて考えてみましょう。

 私たちは実際の痛みの3倍の痛みを感じているという考え方があります。

 それはどういうことかというと、実際の痛みを10とすると、それにこれまで体験してきた過去の痛みを10、それからいつ治まるかもわからないこの先の痛みを10、合計30の痛みを感じているというのです。つまり私たちは、過ぎ去った今日までの痛みと、まだ感じてもいない未来の痛みまで足してしまって、実際より大きな痛みを作り上げているというわけです。いま実際に感じている痛みだけなら10で済むところを、辛い過去と先々への心配で3倍にふくらませてしまっているのです。

 そんなバカな!私の痛みは本当に30、いや100でも足りないほど大変なんだ!とおっしゃるかもしれません。でもよく考えてみてください。今の痛みが今夜一晩寝て明日の朝にはもうすっかり消えていることがはっきりしていれば不安など感じないでしょうが、いつまで続くかという心配がきっと痛みを増幅させているのだと思います。

 誰にも明日起きることはわかりませんが、経験豊富なお医者さんの「大丈夫ですよ。きっと明日には痛みは取れていますから」という言葉を信じてみてはいかがでしょう。そうすれば少なくとも明日も痛いであろうという“予定の痛み”の分の10は痛みが減ります。かりに翌日になっても痛みが取れていなかったとしても、また次の日の心配をすることなく「いま・ここ」に居続けるかぎりは、先回りして余計な痛みまで背負い込まなくてもいいわけです。

 考えようによってどうにでもなる未来の痛みより、過去の痛みのほうが取り除くのが難しいかもしれません。実際に体験した痛みですからね。間違いなくあった事実、でっち上げなんかではありません。

 でもそれもいま実際にここにあるわけではありません。過去の痛みはいまはもうここには存在しないのです。思い起こして何度も痛みを再現したりしないで、過去に置き去りにしておきましょう。

 それが「いま・ここ」を生きるということです。

 どんなに辛く苦しいことがあるときでも、おいしい料理を食べているときは少なくとも一瞬でもその苦しみを忘れています。せっかくのおいしい料理も、辛いことばかり考えながら食べていると、味気ないものになってしまいますよね。

 人間は想像力旺盛な高度な知能を持った生き物です。しかし、それだけにまた悩み多き生き物でもあります。でも実際には一度にたくさんのことを考えられないし、同時にいろんなことを感じることもできません。「いま・ここ」でするべきことに集中することによって、多くの想像上の痛みや苦しみからは解放されます。

 痛みは身体の状態を知らせる大事なサインです。かと言って辛い痛みを自分で必要以上膨らませて感じなくてもいいはずです。

 悩むときは悩む、忘れるときは忘れる。そんなことができれば、私たちの一日はもう少し楽になるのではないでしょうか。