距離感
私は写真が趣味です。もう長いことやっていますから失敗写真も山のように築いていますが、写真も人間関係も距離感がとても大切だと思っています。
「近過ぎず、離れ過ぎず」は人間関係の基本かもしれませんが、写真の場合も被写体との距離によってずいぶん作品の出来が違います。
いまは広角から望遠まで幅広い焦点距離をもつズームレンズという便利なものが主流になりましたが、昔は単焦点レンズしかありませんでした。
まずは標準レンズと呼ばれる単焦点のレンズでいろんなものをいろんな角度から写して練習するわけです。カラダごと被写体に近づいたり離れたりしてだんだんそのレンズに慣れてくると、だいたいこれくらい近づけばいい写真が撮れるということがわかってくるのです。そしてそのレンズの距離感を身体で覚えていくのです。
それと同じように、人間関係も、まずは成長途上の子どもは子どもの「自分というレンズ」で世の中を見てみる。そして人と接してみる。どれくらいの距離でいると友達になれて、その人と上手くやっていけるか。
そんなふうに試行錯誤しながら、いろんな場面にあったレンズを身につけていく。
それが人としての成長であり、いろんな視野を持つ大人になるということではないでしょうか。
でもいろんな距離感を持つ様々なレンズを自分の身につけることは容易なことではありませんし、またそれを使いこなすのは難しいことです。
「ヤマアラシのジレンマ」という話をご存知でしょうか?
ヤマアラシ同士が寒いから暖まろうとお互いに身を寄せる。しかし、くっつき過ぎるとお互いの鋭い針で相手を傷つけるし、離れ過ぎると暖かくない。
暖め合うには多少の痛みを伴うということです。お互いに痛みを分かち合い、多少の犠牲を払いながら生きていかなければならないのです。それぞれの場面に応じた距離感が大切だというたとえです。
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七変化のようなズームレンズは確かに便利ですが、便利なものは優柔不断にもなりやすいのです。よく言えば臨機応変とも言えますが、単焦点レンズのようにしっかりとした自分の物差しを持っていないと、ついつい世の中に流されてしまいます。
私もつい便利だからとズームレンズを使うことがありますが、ズームレンズをつけていると何でも撮れると錯覚してしまい、結局撮りたいものに焦点が定まらずに、いい写真が撮れなかったということがよくあります。
八方美人を演じていると、自分を見失ってしんどくなってしまうことがよくあるものです。
時には相手に合わせることも大切ですが、しっかり自分の基本になるレンズを持って、そのうえで時と場合によって他の様々な焦点距離のレンズを使い分けることが大切なのではないでしょうか。
そのためには、ズームレンズに限らず、インターネットなど便利なものに頼り過ぎずに、身体を動かし、脚で稼いでの実体験をしながら、いろんなものとの適度な距離感を身につけていくことが大切だと思います。
簡単に得られる頭だけの知識よりも、実際の現場で身体で感じて覚える距離感しか、いざというときには役に立たないともいえるかもしれません。